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10歳で決まる未来? ドイツの教育制度を徹底解説

ドイツの教育制度は日本と大きく異なり、その独特なシステムは世界中から注目されています。特に驚きの点は、わずか10歳という幼い段階で将来の進路を決める必要があることです。今回はドイツの教育制度について詳しく解説します。



日本の常識を覆すドイツの教育制度

世界から見ても特殊な教育制度をもつドイツ連邦共和国。衝撃なのは、わずか10歳で将来の選択が迫られること。小学校卒業後に、大学進学を目指す「ギムナジウム(Gymnasium)」、将来的に専門分野での活躍を目指す「レアルシューレ(Realschule)」、就職を目指す「ハウプトシューレ(Hauptschule)」という3つから、自分が目指す分野を選択し学校を選びます。一番人気は、大学進学を目指すギムナジウムのようですが、入学の難易度が高く、ストレートに卒業できるのも全体の7割程度だとか。そんなドイツの教育制度に疑問を持つ親も多いようで、最近では13年制のシュタイナー教育を行う学校が人気を集めているそうです。

それでは、ドイツの教育制度を以下の6つのカテゴリに分けて説明します。

①教育制度の特徴

②教育課程

③教員免許制度

④学校評価制度

⑤教育費

⑥教育課題

①教育制度の特徴

 

16の州からなるドイツは、州によって教育制度や1年間のスケジュールも大きく異なります。夏休みやクリスマス、イースターやカーニバルなど、長期休暇を大事にするドイツでは、混雑を避けるために休みを州ごとに少しずらしているようです。春は約3週間、夏は約2ヵ月、冬は約3週間と、日本よりも休みが多い印象を受けます。

義務教育期間は6歳〜15歳の9年間。標準的な教育システムとしてはまず、州によっても若干異なるようですが、6歳からの4年間は初等教育として、基礎学校(グルントシューレ・Grundschule)に通います。基礎学校は日本でいう小学校のような場所であり、ドイツ語や第二外国語(英語やフランス語)、算数、生活、体育、図工などの授業を受け、日本のように理科や社会は学びません。また、授業についていけないと判断された生徒は、保護者や本人の同意を経て留年に。反対に、成績が優秀であれば飛び級も可能です。

小学校卒業後は、将来希望する進路によって通う学校が3つに分かれます。わずか10歳で進路を選ばなくてはならないことや、小学生での留年、進路変更が難しいことを考えると、厳しさを感じずにはいられません。

②教育課程

 

ここでは、小学校卒業後の進路について詳しく見ていきましょう。

・ギムナジウム(Gymnasium

最終学年に大学に入学するための資格試験「アビトゥーア(Abitur」」を受ける学校で、大学進学を目指す子供たちが選択します。かつてのギナジウムには9年制「G9(ゲーノイン)」しかありませんでしたが、先進国よりも1年長いという理由により、2002年ごろから8年生「G8(ゲーアフト)」ができはじめました。現在は州により違いがあり、システムも一律ではないようです。また、多くの公立学校は共学ですが、私立のカトリック系の学校には女子高もあります。そこでは、家庭科など共学の学校ではあまりみられない科目が取り入れられているそうです。

・レアルシューレ(Realschule

将来的に専門分野での活躍を目指すレアルシューレでは、卒業後、事務職に就くことが多いそうです。また、上級専門学校や専門ギムナジウムなどに進学し、アビトゥーレを受けて大学進学を目指す事も可能だとか。反対に、ギムナジウムを卒業してから大学に進学せず職業訓練に入る学生もいるそうです。

職業訓練は、企業が訓練生のポストを用意することで実施されます。このような取り組みによって、25歳以下の失業率を抑えることができるので、世界的にも高く評価されている制度のようです。

・ハウプトシューレ(Hauptschule

将来、職人や事務職などの実践的な職業を目指す生徒が対象で、5年制または6年制の学校。将来の職業に必要な知識や技能を身につけるための実践的な授業が中心です。クラスの人数が少ないので一人ひとりに目が行き届き、サポートを受けやすい環境ですが、近年は生徒数が減少傾向にあります。これは、社会全体における高等教育への関心の高まりや、ハウプトシューレ卒業生の就職状況の悪化などが原因と考えられています。

③教育免許制度

 

ドイツでは、学校種別資格として「基礎学校教師」「基幹学校教師」「実科学校教師」「ギムナジウム教師」が区別され、それぞれ教育学科や単位などが違うようです。

また、教員数の少なさに悩むドイツでは「キャリアチェンジャー」と呼ばれる、教員免許を取得していない人が注目されています。特に小学校では、ここ数年で学校にいるキャリアチェンジャーの数が上昇傾向にあるらしく、今後も上昇は続くといわれています。

ちなみに、ドイツでは日本語教育がそれほど盛んではないので、語学学校で日本語教師になるのはとても難しいようです。しかし、ドイツで就労できる適正ビザを持っていれば、民間で教師として働くことは可能だとか。就労ビザに加えて、日本またはドイツの大学にて日本語教育専攻・副専攻、日本語教授法420時間講座の修了者、日本語教育能力検定試験合格者を求めている場合が多いようです。

④学校評価制度

 

教育の中で「自分の意思を持つこと」と「発言力」を大切にするドイツ。子供のうちから提案や指示、命令に対して、賛成か反対かを自分自身で考え判断する力を育てます。例えば、子供たち同士の喧嘩に対して、命に関わるような危険がない限り先生は介入しません。そのような事柄から、自分がどう思っているのか、どうしたいのか、どう解決すべきなのかを学ぶというわけです。そのため、学校の評価でも、授業中に手を挙げ発言することに対しての評価は高くなります。もちろん成績も大事ですが、評価の半分くらいは授業中の発言と言っても過言ではないようです。

⑤教育費

小学校から大学まで、公立学校の学費は全て無料です。留学生であっても無料なので、留学を考えている人にとって、かなりありがたいシステムではないでしょうか。しかし近年では、公立学校の質の低下が問題となっており、私立学校を希望する人も多いようです。私立学校やインターナショナルスクールは年間約200万〜250万円ほどかかります。公立学校が無料なことを考えると、格差を感じずにはいられません。

全てのことが公立学校よりも私立学校の方が優れているとは言い切ることができないので、学校選びは慎重に行うことが重要のようです。

⑥教育課題

教育制度の質開発研究所の調査(2021年)によると、学力が標準に達しない児童の割合が大幅に増加しているようです。こうした学力の低下が課題として挙げられる中で、移民や難民の子供たちの増加が問題になっています。移民や難民家族の社会的、経済的な地位、両親の教育水準が低いこと、家庭でドイツ語を話さないことなどが、学力低下につながっているというわけです。

また、学力を標準の基準まで戻すには、教員の力が不可欠ですが、前述したようにドイツでは教員不足が深刻化しており、若い人にとって魅力のない職業になっているようです。

ドイツが抱えている問題は、今後さらに国際化が進んでいく中で、どの国も避けることができない問題となるでしょう。それぞれの国が、教育の多様性を維持しながら問題と向き合っていく必要があるかもしれません。

 

いかがでしたでしょうか。

ドイツでは10歳という早い段階で将来の職業を意識した選択を行います。偏差値などを重視した教育ではなく、自身が選んだ道のスペシャリストとして誇りを持ち生きていく教育を、早い段階で受けることができるのは、魅力のひとつかもしれません。

 

 

Text by yumeka