名古屋の人にとって、鰻は言わずもがな身近な食材だ。鰻は、うな重にしろひつまぶしにしろ、鰻、タレ、米というシンプルな構造でありながら、そこに各店の工夫とこだわりが見て取れる、非常に面白く奥深いジャンルでもある。だからこそ、決して食べ飽きることはない。むしろ、その微細な味の個性を感じ取ろうとすればするほど飽きとは程遠く、“理想の一杯”をどこまでも求めてしまうのではないだろうか。
そんなことを考えていたら、今日は、少し面白い一杯を食べに行きたい気分になった。たまにはゆったりと街の趣を感じながら、円頓寺へと向かおう。
昼夜ともにコースで鰻料理を堪能
円頓寺商店街のすぐ近くでその存在感を示すようにはためく、朱と黄色の暖簾。この先に「登河」の入り口はある。
「登河」は2020年11月にオープンしたばかりの、比較的新しい鰻料理店。店は築90年にもなる古民家を改装して作られている。
中のしつらえも見事なものだが、特に庭が息をのむほど美しい。約130年前の趣をそのままに、そっと手を加えてモダンな雰囲気もまとっている。店内にはテーブル席のほか個室も充実しているが、窓際のこの席はおそらく特等席のはずだ。
ここでは、田原産の鰻を中心に、十分なサイズとボリューム感の鰻を仕入れて備長炭で焼き上げている。届いてから串打ちするため、鮮度は保たれたまま。あえて炭を低くし遠火で焼くことで、余分な脂が落ちてくどくなく食べやすく仕上げている。昼夜ともにコースの用意があるので(前日までに要予約)、慶弔時にも使い勝手がいい。
人気を二分している「奥三河どりのかしわ丼」もなかなかの絶品で、開店から1年経った今ではどちらにもリピーターが多いのだという。
真剣なまなざしで鰻を焼き上げるのは、日本料理に造詣が深い大森光記氏。
「一瞬でも目を離すと焼き損じてしまう。少しでも焼きに納得がいかなければ絶対にお客様には出しません」と話すほどの気概の持ち主でもある。そうならないように目を見張りながらたっぷり時間をかけて焼いたら、ぐっとタレをくぐらせる。鰻からほんのりと染み出た脂がタレの瓶に膜となって現れるが、この脂分も計算してしょうゆやみりんなどを配合することで、味に奥深さを出しているのだ。
ここまできたら、自分のもとへ料理が饗されるのもあとわずか。庭園を眺めながら、待つ時間すら丁寧に感じていようではないか。
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<店舗情報>
ひつまぶし 登河 那古野本店
名古屋市西区那古野1-2-11
052-526-0063
11:30~14:30(L.O.14:00)、17:30~22:00(L.O.21:30)
(土日祝は~15:00(L.O.14:30)、17:30~22:00(L.O.21:30))
水曜休
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
<後編へ続く>2月17日更新予定