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酒と人を誘う、罪な一皿。「てんぷら玉好」後編

料理に新たな楽しみを見出す

前編:酒と人を誘う、罪な一皿。「てんぷら玉好」前編

 

コースの最後を飾る、からすみ蕎麦。数ヶ月前から店に出すようにしたところ、食通たちから大変な好評を得て以来続いている一品だ。

小ぶりな器に盛られた蕎麦はひんやりと冷たく、熱々の天ぷらをいただいたあとにはなんともうれしい。そしてこの鮮やかな黄色のからすみは、都築氏の自家製によるもの。しっかりと塩味を際立たせることで、味を引き締めているのがわかる。

 

 

注目すべきは、この蕎麦。実は、扱いにくく独特の味わいに賛否があるとして、蕎麦店があまり取り扱いたがらない「韃靼(だったん)蕎麦」をあえて使用しているのだ。

 

「蕎麦粉は北海道の『満天きらり』という品種を使っています。従来の韃靼蕎麦といえば、通常の蕎麦に比べて苦味があり、粉っぽくもたついた食感でした。さらに茹で汁が黄色になってしまうため、大量のお湯を毎回消費しなくてはいけなかったり、個性的な味わいのため蕎麦湯に使いにくかったりと、多くの蕎麦屋さんではあまり好んで使われない品種です。

ですが、この『満天きらり』は品種改良されており、苦味も少なく歯切れもいいことから、当店ではコースのシメに取り入れることにしました」

 

 

さらに韃靼蕎麦は、古くは漢方薬としても使われるほど栄養価が高いことでも知られている。日本蕎麦よりもルチンが豊富に含まれているほか、ビタミンやカリウム、亜鉛などのミネラル類の宝庫でもあるため、体にうれしい効果があるとして近年注目の食材だ。

 

もちろん、粉を配合するのも打つのも都築氏が行う。

「通常は二八といって、蕎麦粉とつなぎを8:2の割合で入れますが、何度も試した結果、この蕎麦粉にはそれらを9:1で配合する外一(そといち)がしっくりきました」

と、試行錯誤の様子も話してくれた。

 

この、手強い蕎麦と自家製のからすみを受け入れるのが、長年愛用するつゆと、隠し味のオリーブオイルだ。

全体的にしっかりと混ぜてからいただくと、全ての個性的な風味が口の中で見事に一体となるのを感じられる。噛み締めながら、とにかく唸るほかない。

 

 

シメと言っておきながらその実、酒にも合うときているから困りものだ。この店では、入手困難な日本酒『十四代』をはじめ、熊本県の酒屋が醸す山田錦の『産土(うぶすな)』など、名酒が豊富にそろう。

「これをアテに、おまけのもう一献」。そんな気分にさせてくれる、なんとも罪作りな一品なのだ。

 

さらに都築氏は、新たな料理への創作意欲も持ち合わせる人物。職人から仕入れるという器の一枚一枚を吟味し、そこから“完成形”をインスパイアするという。この道30年以上でありながら、ひとつごとを追求し続けるその心意気は、人生の先輩として尊敬の念を抱かざるを得ない。

 

 

「天ぷらも蕎麦も、出来立てを食べてもらうのが一番おいしい。器と料理との調和、料理と酒との調和を楽しんでもらえたらうれしいですね」

 

師に習った天ぷらと、自身で追求し続ける新たな料理。

そのどちらもが合わさり唯一無二の個性となって、酒を誘い、人を呼び寄せるのだろう。

 

そして今日もやはり、誰に聞かせるでもなく言ってしまう。

「この店の、この料理がうまいんだ」と。

 

 

店舗情報

店名 てんぷら玉好
営業時間

11:30~14:00 18:00~22:00

通常営業の場合
定休日

不定休

予約・お問い合せ

052-932-3170

住所
〒4610003 
愛知県名古屋市東区筒井1-2-45
座席数

8席(カウンター8席)

クレジットカード

利用可(VISA、Master、JCB、AMEX、Diners)

アクセス

桜通線車道駅1番出口を出て桜通車道交差点を北に右折 建中寺東交差点を越え、東海高校正門手前 徒歩約8分

車道駅から622m

駐車場

有(2台)

公式サイトURL
http://tmys.jp/reserve.html

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