身体が和食を欲している、と感じることがある。
季節感のあるあしらいや素材を引き立てるやさしい調味、そして奥ゆかしく表現される職人の矜恃。さらには、そこにある空間や目に映るしつらいにいたるまで、それらを全身で感じたい、と思うのだ。
基本を守りつつ、訪れるたびに新たな発見をさせてくれる「すし験」は、和の魅力をまた違った角度で見せてくれるから好きだ。今日の出会いを楽しみに、店の扉を開けるとしよう。
基本に忠実ながらも自身の感覚を表現
高級な寿司屋、といえばどこか姿勢を正して暖簾をくぐるような、そんな店もある。
だがそんな中でも「すし験」は、いい意味でそういった背伸びをすることなく、自然体で訪れることのできる寿司屋だといえるだろう。店を入ったときに感じられるヒノキの温かさがそうさせるのか、さりげなく主張するしつらいの妙か、はたまた大将の秋枝泰祐氏が纏う雰囲気のおかげか。
和の料理人として30年以上のキャリアがある秋枝氏。
食材は必ず自ら市場へ出向いて仕入れるほど妥協はないし、2020年には愛知のモノづくりを支える優秀な技能者として「あいちの名工」にも選出されている。しかしそういった輝かしいキャリアをおくびにも出さないような——言うなれば、店の雰囲気と馴染んで一体化するような佇まいが、彼にはある気がする。
そしてその仕事ぶりは、堅実であり、また洒落ている。和の基本・五味五色五法に忠実でありながら、自身の直感から得たものをその手先で表現するからだ。
この日の一皿について尋ねると「ホウボウと、柔らかなアワビを」と短い返事をもらうことができた。いや、それだけでいい。そこから先は、彼のみぞ知ることである。彼に染み付いた和の技巧と、食材と対峙したときのインスピレーションがあれば、至極の一皿に仕上がることは間違いないからだ。
<店舗情報>
すし験
052-211-7722
名古屋市中区丸の内3-10-8 LIBERTA CARINO 1F
18:00〜24:00(L.O.23:00)
日・祝休
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
<後編へ続く>
2月10日更新予定