伝統と挑戦が生み出す、唯一無二の表現
若きシェフの手から生み出された、クラシカルなフレンチ。そのギャップが驚きの感情を沸かせてくれる。
ドーム型のパイ生地はいかにも美味しそうな焼き色をまとい、今か今かと“食べられる時”を待ちわびているようだ。そしてその中にある、ヒレ肉とフォアグラの存在感たるや。知多牛の上等なヒレ肉でフォアグラを包むようにしているのだが、パイの焼き色とは裏腹に、これらはみずみずしいレアに焼き上げられている。
この、中と外の焼き加減はおそらく容易ではない。金串を刺して唇の下に当て、自身の感覚に尋ねているであろう宮原氏の所作が、オープンキッチンの奥に窺えた。
特筆すべきは、このソース。
「ポルトガルの宝石」とも称される甘口のポートワインと、香ばしい風味が特徴のマデイラワイン、そして野菜や肉の切れ端をじっくりと煮込んだフォンドヴォーを合わせている。2種の個性的なワインとフォンドヴォーが作り上げる甘みと、牛肉・フォアグラの塩味との相性が、また絶妙なのだ。
「こういう、クラシカルなフランス料理が好きなんです。しかし正直、焼き加減は納得のいくものを出せるようになるまで試行錯誤しました。このソースも、肉やフォアグラとの相性を意識して調整しています」との素直な言葉選びに、好感が持てる。
そんな宮原氏が、パイ包みの他に注目してもらいたいと話すのは、付け合わせの野菜だ。
彼の夫人の実家の畑で育てているという、これらの野菜。収穫だけでなく、季節ごとに彼自身が野菜の苗を植えるところにはじまり、栽培にも携わっているのだそうだ。「私も妻も地元が関市なのですが、毎週土日には関市に戻り、畑で野菜を収穫してきているんです」と、宮原氏は話す。
そんな彼が、自分で野菜を育ててみてわかったことがあるという。それは、「野菜は決して脇役ではない」ということだ。
「野菜には、ものすごく可能性があるんだと感じました。甘み、渋み、旨味。自分で管理してわかったそれらの特徴を、存分に発揮できるような料理に挑戦していきたいという思いが芽生えました。肉や魚だけではなく、野菜も組み合わせた一皿の料理の上で、新たな驚きや喜びを感じていただけるようなものを作っていけたらと思っています」
——先ほど、「付け合わせの野菜」と紹介してしまったことを、心より謝罪しよう。
彼曰く、「ただ添えられているだけの野菜」は好きではないのだという。
意味のある一皿。理由のある一皿。
伝統的なフレンチを愛しながらも、新たな挑戦を続ける彼の料理は、おそらく唯一無二のものであるだろう。
そんな料理がいただけるからこそ、ここで過ごすひとときはそれだけで“記念”になるのだ。
ふと、今日は今日でやはり“記念日”になっていることに気づく。
この一皿と出合えたこと、宮原氏の思いを聞けたこと、そして、もっとレストランが好きになったこと。それらは今日でなくては訪れなかったからだ。
そんな話を、帰り際にぽつりと呟いてみる。少々酔いの回ったようで、不思議と恥ずかしくもなんともない。
すると連れ合いも同じだったようで、俵万智のあの句を弄ぶように言った。
「レストランの良さをあなたが話すから 今日は2人の“レストラン記念日”」
大人のやりとりは、甘酸っぱい。
店舗情報
店名 | クルヴェットダイニング |
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営業時間 | 17:30~22:00(L.O.20:30) ※ご予約・お問い合わせは13:00より |
定休日 | 土曜日・日曜日・祝日 |
電話番号 |
052-561-1133 |
住所 | 〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅2-38-18 クルヴェット名古屋 1F |
座席数 |
34席 |
お支払方法 |
カード可(VISA、MASTER、JCB、AMEX、Diners) |
アクセス |
各線[名古屋駅]1番出口より徒歩3分 |
駐車場 |
なし |
URL |
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