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“欧風料理”の花を咲かせて。ワインラウンジ&レストラン セパージュ <後編>

100人に、100通りのサーヴィスを

前編はこちら▶“欧風料理”の花を咲かせて。ワインラウンジ&レストラン セパージュ<前編>

思わず、窓の外の景色から視線を戻してしまうほど美しい料理が運ばれる。シェフが20年来作り続けているという、厚切りサーモンの薫製マリネだ。いわゆる「ビタミンカラー」がふんだんに取り入れられ、どことなく明るい気分にさせてくれる。

いや、それだけではない。家庭でも居酒屋でも日本人に親しみのあるサーモンを、あえてレストランらしく昇華させて提供するという、職人としての自信もひしひしと感じられる。

 

そしてなにより、この身の分厚さには驚きを隠せない。脂がよくのったノルウェー産のサーモンを、24時間マリネ液に漬け込み、流水で一度洗い流し余計な塩分を取り除いてから桜のチップでじっくりと燻す。おかしな言い方だが、おそらくサーモン自身も到底気づかないであろうほどの低温で、何時間も。しっとりとマリネ液が染み込んだ身にさらに上書きするように、燻製の香りを纏わせたら完成だ。

 

サーモンの脂の甘みと、マリネとしての酸味、薫製の香ばしさを、フルーティなフランボワーズのソースで迎え入れるのだ。口の中で見事に調和し、一体となる感覚がたまらない。

この料理を20年以上にわたり提供する理由を尋ねる。

「馴染みのあるサーモンをこのようなスタイルで提供することで、少しでもレストランらしく、非日常を感じていただけたらと思うからです。それはつまり、レストランだけができる、エンターテインメント。20年前から変わらない、お客様の驚きと喜びに満ちた声を、これからも聞くことができたらと思います」

 

現に、根井氏は頃合いを見計ってよく客前に出るようにしている。一人ひとりの表情や食事の進み具合、好みの食材……。それらをそっと“観察”するのだ。そうすることで、リピーターの心を掴む何かがわかるのだという。

100人いれば100通りのサーヴィスがある」。彼がこれまで培ってきた長い料理人人生の中で得た、揺るぎない根幹だ。

 

現代のニーズに合わせてレストランがすべきことはまだまだたくさんある、というのが氏の考えだ。例えばそれは、同じ料理でも器を変えたり、季節の移り変わりを感じられるよう月ごとにメニューを考案したり、3人のソムリエがそれぞれ提案するワインとのペアリングで、客に新たな気づきを促したり。すくすくと育つ枝葉のように、それらの工夫は陽の射すほうへ向かって伸びていく。

 

そこへ、彼が生み出す“国境なき欧風料理”が花となって咲く。大木のように根付いたセオリーと、多様な価値観を取り入れるべく成長し続ける姿勢。そこに咲く花ならば、目で、舌で、香りで、これからも多くの人々を楽しませることは間違いない。

人間は、“天空”に憧れ続ける。それはきっと、その先をまだ誰も想像し得ないからではないだろうか。なにがあるかわからないから、なんでもあるに違いない。そんな想いを、抱くからではないだろうか。

 

……身も心も解きほぐされ、いささか空想的になりすぎたのかもしれない。だが、こんな日もたまにはいい。

 

「名古屋の大人は、豊かで柔軟であるべきだ」。

柄にもなく出た言葉は、天空に向かって吸い込まれていった。

 

店舗情報

店名 Wine Lounge & Restaurant Cépages
ワインラウンジ&レストラン セパージュ
住所  愛知県名古屋市中村区名駅1-1-4
JRセントラルタワーズ51階 パノラマサロン内
お問い合わせ 052-587-7820
営業時間
ランチ 11:0015:00(L.O13:30)
ディナー 18:0022:00(L.O 19:00)
定休日 無休(JR名古屋高島屋の店休日に準ずる)
HP

https://cepages-nagoya.jp/

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