電車を降りて向かったのはホテル。もう私は、家にすら呼んでもらえない存在となってしまったのか。
ホテルに入ると、急に抱き締めてくる翔太。久々に感じる温もりは、皮肉だけど居心地が良かった。
やっぱり、私は翔太が好きなんだ。
ベッドに沈む2人の体。室内に響く2人の声。そして、体全体で感じる大好きな相手。1番じゃないのは分かっている、それでも幸せだった。
例え2番目だったとしても、体しか求められなかったとしても、この瞬間だけでも必要とされているのだから。
1番目の女に昇格できる可能性が全くないというわけでもないし。
でも、そんな都合が良いことばかりを考えていた私に、衝撃の一言が告げられた。
「俺さ、今の彼女と同棲してるんだよね。結婚するつもり」
私は頭の中がパニックになった。現在地は、ラブホのベッドの上。しかも相手は浮気相手。状況を理解するのに時間がかかった。
じゃあ何で私を抱いたの?
結局私のことをどう思ってるの?
自分のこと最低だって思わない?
頭の中で次々に出てくる文句。だけど、1番ムカつくのはそれを知っても翔太を好きなままの自分。
必死に作った笑顔で、こう言うしかなかった。
「そっか、おめでとう」
それからというもの、定期的に翔太から連絡が来るようになった。内容は大体同じ。
「今日彼女がいないんだけど、友梨ちゃん家に泊まり行って良い?」
その文章を見るたびに部屋を綺麗に掃除して、ご飯を作って、精一杯の笑顔で迎えてた私。
どれだけ滑稽だったのだろう。もう私には、手に入らないのに。
人づてに聞いた話だと、翔太は学生のうちに婚姻届を出したらしい。公にはしていなかったけど、仲が良い友達には話していたみたい。私は聞いていないけど。
いつの間にか、私は浮気相手から不倫相手になっていたのだ。しかも知らないうちに。
私は結婚しているという話を聞いてから、翔太とは会わないことを決めた。
もうこれ以上一緒にいても、意味がないと悟ったから。翔太と一緒にいても、幸せになれない。
私はどんなに頑張っても、2番目の女なんだから。
私は翔太との関係を絶った寂しさを紛らわすため、就職活動に精を出した。
おかげで、第一志望の企業から内定をもらうことができた。ちなみに翔太も、第一志望の大手メーカーに内定をもらったらしい。
就職が決まった後も翔太からの連絡は絶えなかったが、私は徹底的に理由をつけて断った。
それでもブロックすることができなかったのは、まだ好きだったからなのかもしれない。
でも断り続ける私を見て察したのか、徐々に翔太からの連絡はなくなっていった。
結局卒業式まで会うことはなく、卒業式も挨拶程度の会話を交わすだけで終わった。
私が卒業したのは大学だけではない。「2番目の女」からも卒業したのだ。
これからは、自分が幸せになれる道だけを選ぶ。そう決意した。
これがまだ、不幸の前兆に過ぎないなんて、想像もしていなかった…。
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第一希望の企業に就職が決まり充実した日々を過ごす友梨。ある日友梨のところに一通のハガキが届く。