NOVEL

御前崎薫は…vol.8~誘う~

初めて会ったときは、感情も見えず、そして攻撃的で。女性ということもあいまって、ひどく苦手な印象だった。

けれど、実際の彼女は表情豊かで。攻撃性だと思ったものは、過去に深く傷ついた心を護るためのもので。

行動力があって、そして、他人のために怒ったり、受け入れたり、思いやったりできる彼女。

 

(きっと……今のは、覚えててくれてるからなんだろうな)

例の同窓会が、今日だということを。

どうしたって落ち着かない僕の気持ちを察して、あんなふうに言ってくれたんだろう。

「同志、か」

仕事仲間とも、友達とも違う。同じ傷を抱えて――舐め合うんじゃなくて、支え合えるような。そんな関係が、築けるなら。

 

***

 

結局、なんだかんだ昼過ぎまで、夢中になって取り組んでしまった。おかげで、手もつま先も痛い。

「でも結構、課題は進んだな」

次回からは、次のレベルに上がれそうだ。途中詰まるところもあったけれど、身体の動かし方や、ホールドを持つ位置、足の引っかけ方を少し変えるだけで、ぐんと登りやすくなったりするのだから、本当に奥が深いスポーツなのだなと思う。

 

椅子に戻ると、槙さんがプロテインを飲み終えたところだった。多分、昼飯代わりなのだろう。シェイカーをしまい、他の荷物もバックパックに詰め込んでいく。

「上がるんですか?」

「はい。着替えてからですけど」

ここで自分も上がったら、まるで一緒に帰りたがっているように見えてしまうだろうか。

「同志」と言ってもらったけれど、それでも僕は槙さんの苦手とする「男」というもので、そういう慣れ合いは、なんだか違う気もする。と言うか、嫌がられるような気が――。

 

「御前崎さんも上がりですか?」

「え、あ……はい」

なんとなく後ろめたい気持ちになりつつ頷くと、槙さんは少しだけ首を傾げて言った。

「じゃあ、せっかくだから、駅までご一緒しませんか」

「いえ」

「なにかご用事があれば、別ですけど」

いえ、という返事は。思いのほか、食い込み気味になってしまった。

「槙さんが、嫌でなければ……」

「じゃあ、入口で待っててください」

笑って手を振る槙さんに、僕は茫然とした気持ちで、気がつけば手を振り返していた。

 

***