NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.7 ~忠告~

「山下課長に、言われたくないですが」

 

確かに、そう言って山下課長はすこし笑った。この人も、笑った顔はあまり見たことがない。意外なことばかり起きる月だ。いや、様々なことが起きているからこそ、それが因果を招いて、次の意外なことが起きているのかもしれない。大体のことは繋がっている。偶然なんて、ほとんどない。

 

「それで…」

 

お昼を食べ終わったころ、山下課長が口を開いた。

 

「最近、何かあったでしょう」

「山下課長もご存じの通り、大きな商談を失敗しました」

「そうじゃなくて、他に」

 

冗談で言っているわけではない。山下課長の無表情は、いつも一直線に人を見つめている。いつも冷静に、すこし離れた位置から。だからこそ、なんとなく裏がないという信頼が彼女には感じられる。

 

「まぁ、いろいろ」

「…そう」

 

水を口に含み、山下課長は一息をついた。

 

「話せるようになったら、話しなさい。それと…」

 

山下はタブレット端末を取り出し、画面を操作しながら話を続けた。

 

「あなたのところの島田って子。気をつけた方がいいかもしれないわよ」

 

画面に写っていたのは、タイアップ先のアニメーション会社のプロデューサー清水と島田が、繁華街のホテルから出てきている写真だった。藪から蛇という言葉が本当にあるということを、初めて自覚した。

 

「あなた、島田さんと何かあったんじゃないの?」

 

わからない。わからないからこそ、確かめなければいけない気がした。

 

「ありがとうございます」