NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.5 ~嫉妬~

男を取られた。

それだけだ。ただそれだけ。良くある話だ。私が好きだった人が、私を選ばなかっただけ。

友人は私を心配して、酒の席を精一杯開いてくれた。この世の美味しいものは、あの期間に大概食べつくしたのではないかとすら思う。でも、どれだけ優しい言葉をかけられても、美味しいものを食べても、満たされる感覚はなかった。家に帰ると、無駄に広いソファと空間の余った冷蔵庫に圧迫されながら、スマホを見て眠るだけだ。

 

パソコンを開いて、フォルダーから進捗管理用の表を選択して開く。表に並ぶのは、グリセリンに細かな素材が微妙な変化をつけて配合された「新商品」たちだ。

各素材の原価や制作にかかる費用が細かに記載され、そこから予測される売り上げ効果を算出していく。うちの会社から出た商品はLPサイトや通販を通じて、人とは違う化粧品を手にしたい人に渡る。

生きることへの意義を全てではないにしろ、大きく削られている私はこの表に並ぶ商品の群れの中に、自分の生きるための意味を探している。

 

最近、雅さんに連絡をとってみた。すると意外にも返信は早く返ってきた。

 

「お久しぶり!いいね、飲みに行こうか」

 

今日だけは、雅さんを私のものと思っても良いだろうか。待ち合わせ場所は、あえて真鍋課長の最寄り駅を選んでしまったのは、さすがに性格が悪かったかなとも思う。仕事の訪問先の時間を調整して、早めに雅さんと待ち合わせできるようにした。

 

「雅さん!お久しぶりです!」

 

「おー、久しぶりー!」

 

知っているころと変わらない、優しい笑顔だった。もう私には向かないと分かっていても、それでもこの顔を見るとホッとしてしまう。少し胸の奥にチクッとした痛みを感じながら、雅さんのそばに立った。

 

そのまま居酒屋チェーンに入り、通された席に着いた。焼き鳥をメインにしており、リーズナブルな価格帯で人気だ。

私と雅さんは、いつも通り、ねぎまとかしら、チャンジャを頼み、レモンサワーとビールを頼む。雅さんはビールが苦手のようで、いつもチューハイやカクテルを飲んでいる。私はいつも1杯目はビールだ。よく飲みに行っていたころからは時間が経っていたが、その好みは変わっていないようだった。

 

居酒屋では様々な話をした。お互いの近況の話、仕事の話。雅さんは以前までの趣味だったギターを最近は弾けていないという話。旅行に行くなら京都に行きたい季節だという話。取り留めなく、適当に喋りつづける。お酒も入り、近況の話も盛り上がってくる。