NOVEL

彼女がいても関係ない vol.9 ~佐智子への憎しみ~

仕事上の信用も、桐生の関心も何もかもが三村佐智子のせいで失ったものだと礼子は思い込んでいる。

 

そんな三村佐智子が次期社長の桐生泰孝と?有り得ない、というより許せない!

そんな思いが礼子の胸に湧き上がる。

 

「だって、朝から姿見えないでしょう?三村さん」

乃亜がしたり顔で言葉を繋ぐ。

「この前、Blue Skyで二人を見たって人もいるらしいですよ」

 

その言葉に反応して礼子が顔を上げる。

正面にいた乃亜が礼子の顔を見つめて意地悪く微笑んだ。

 

(・・どこまで知っているのかしら、この子)

 

訝しんだ礼子の顔を見つめながら乃亜が言う。

 

「そう言えば、礼子さんも居られたんですよね?その時」

「え、そうなの?」

百合子がわざとらしく驚いた様子で声を上げる。

 

礼子が桐生と訪れた際、佐智子と同席したところを誰かに見られていたのだろう。そう言えば、乃亜が礼子の方を見ながら、百合子に何かを話して居たことがあった。今思うと、あれはこのことだったのだろう。

そう悟った瞬間、再び重苦しい感情が胸に蘇ってくる。礼子は知らず知らずのうちに下唇を噛みしめていた。やや青ざめた礼子の姿に同席の野中ひとみが目を留める。

 

何か声を掛けようかと思った瞬間、礼子が席を立つ。

思いつめた様な後ろ姿を見つめながら言いようのない胸騒ぎを覚えていた。

 

 

●閃光の行方

ホールを出て廊下を歩きながら礼子は治まらない胸の内を持て余していた。

 

(何もかもあの子のせい)

 

自分より年下で仕事だって出来はしないだろう、派遣社員の三村佐智子に憤っていた。冷静に考えればそれは逆恨みに他ならないのだけれど、礼子の頭には佐智子への憎しみだけが渦巻いている。

 

「そろそろお時間ですよ」

 

鈴を転がすような声が響いた。聞き覚えのある声の方へ視線を向ける。礼子の視線の先にヴァレンティノのドレスを纏った佐智子が居た。歩くたびに花びらの様な裾が揺れる。

 

その姿を見た瞬間、礼子の頭の中は真っ黒な世界が広がった。何か考えるより先に足が動く。礼子はそのまままっすぐ佐智子へと向かった。

手はバッグの中に忍ばせたナイフを握りしめている。

 

「あら、礼子さん」

気付いた佐智子が声を掛けながら、左手を軽く上げた。

次の瞬間、礼子の手に握られたナイフの先がまっすぐ佐智子を捕らえるように鋭く光った。

 

 

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 佐智子への憎しみからまさかの行動をとった礼子。佐智子と礼子の運命は一体どうなったのか・・・。そして、すべての真実が明らかに!?