NOVEL

男の裏側 vol.9~離婚と、そして……。~

環の悲痛な叫びは届かなかった。……それにしたって、密はこんなにも周りの人に対しての印象が良かっただろうか。そうだ、そういえば自分だって、それに騙されたのじゃなかったか。環は今更ながらそのことに気が付いて泣きそうになる。

 

老婦人はうんうんと頷きながら、軽く挨拶すると去って行ってしまった。ああ、いよいよ駄目か……。環がそのまま家の中に引きずり込まれそうになったところで、再び声が掛かった。

 

「環!」

「……樹里!」

環は向こうから駆け寄ってくる樹里に気付いて、とうとう涙を流した。樹里はこちらまで走ってくると、密に近付いて彼を睨み上げた。

「環の親友の、平野樹里です。環を放してください」

「……平野さん?へえ、環のお友達の……。こんにちは。環の夫の密です」

「知っています。あなたが環にしたことも知っています。環は嫌がっているんです。彼女を放してあげてください」

「何を?環が嫌がっている?やだな、僕らは普通の夫婦ですが」

「普通の夫婦は、モラハラや監視をしたりしません」

 

そこで密の顔に、初めて歪みが生じた。それでも環の手首を掴んだままだった密だが、彼は初めて樹里を睨みつけた。

 

 

「弁護士を通しています。環から証言も取れています。このままだと密さん、あなたの経歴に傷が付きますよ。穏便に済ませてください。環と、離婚してください」

 

すっ、と、密の表情が抜け落ちた。

「……経歴に?」

密の独り言は、呟くようなものだった。

「あなたの輝かしい今と、将来に傷が付きます。別れてください」

「……そうか」

密の独り言は、より小さくなっていった。

「……分かりました。別れます。話し合いで済ませましょう」