NOVEL

踏み台の女 vol.8 ~次のチャンス~

 

(もしかして、神尾さんは私と付き合う気はないの……?)

 

2月になって一層冷え込んだ冬の寒さを、一人きりの部屋でストーブに当たりながらしのいでいると、どうにも思考がふさぎ込みがちになる。名古屋の冬は底冷えするのだ。

テレビには、新しく始まった冬のドラマがつけっぱなしになっている。真剣に見ているわけではないが、物音のない部屋に一人きりで過ごすのがイヤで、家にいる時はつけっぱなしだ。

 

(なんか、疲れたな……)

 

テーブルの上には、焼きそばのカップ麺。普段はインスタント食品をなるべく食べないようにしているのに、なんだか無性に食べたくなってコンビニで買ったが、満足するどころか、虚しさが増しただけだ。

いよいよ気持ちが最下層まで落ちようかという時、着信が鳴った。

反射的に携帯に手を伸ばす。

神尾だ。

 

「もしもしっ」

「あ、アユミちゃん? おつかれー。電話していい?ってライン来てたから、電話してみたけど。あま木って?」

「あ、そう、そうなの」

 

久しぶりに聞くプライベートの神尾の声に、アユミは涙ぐみそうになったが、単に今この瞬間が寂しかっただけかもしれない。神尾の電話口からは、ガヤガヤと人込みの雑多な音が聞こえてくる。まだ帰宅してないんだろうか。今日は直帰と会社のスケジュールに書いてあったはずなのに。

 

「前に話してたリサっていう友達がね」

「あのセレブの?」

「そうそう、久屋のあま木っていうお寿司屋さんの予約があるから一緒にどう?って……あの、急だけど、もし土曜空いてたら、どう……かなって」

 

神尾のアユミに対する真意が分からず、尻すぼみになって尋ねると、

 

「それ、絶対行く」

 

と神尾が即答した。

 

「あ、いいの? 予定とか」

「大丈夫、アユミちゃんのお誘いが最優先。すげー嬉しい、ありがとう」

「ほんと? じゃあ、返事しておくね、詳細もすぐ連絡する!」