NOVEL

家にも外にも居場所がない vol.3 ~親を忘れられた楽しい時間~

 

「わぁ……」

そのせいか、子供じみた間の抜けた声を出してしまいました。

 

「清美さんはこちらに来たのは初めてですか?」

「はい。改まって地元の観光などはしたことがなくて」

「ならここに来て良かったです。窓から見える街並みも素敵ですよ?」

窓辺に行くと遮られるもののない街並みを地平線まで一望出来ました。

 

先ほどまで歩いていた道や駅を見下ろし線路をなぞるように自宅の方角を見渡すと、ふと考えてしまいました。望遠鏡があれば自宅を見つけられるのではないかと。

近場を通っても見上げるだけだったビルからはこのように見えていたのだと、身近な場所なのに何処か遠くに来たような気分でした。

いつも見ている場所からは全く違う景色が見えるのはとても不思議でした。

 

 

「どうでしょう? ただ景色を眺めるだけでも少し不思議な気分になりませんか?」

「そうですね。視点が変わるだけでも受ける印象は全く違いますね」

「それは良かったです。せっかくなので街の名所を少し紹介しますね」

 

そういうと庄司さんは見える景色の中から有名な場所やちょっとした雑学を話してくれました。

名古屋大学はあっちのほうだとか、遠くにはポートタワーを見ることができるとか、金シャチ横丁と森はあそこだとか、近くでみたことあるものもなんだか初めて見るような気分でした。

 

その日は出だしからとても良い体験でした。

その後もデートは続き、駅周辺だけでもとても満足のいく時間を過ごすことができました。

 

 

next:1月28日更新予定

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