NOVEL

家にも外にも居場所がない vol.3 ~親を忘れられた楽しい時間~

 

たぶん私をおだてる冗談だったと思います。

ですが、母が冗談を言っているところをあまり見たことがないので、本当に冗談なのか怪しい部分もあります。

 

しかし母だって父と恋愛をして結婚したはずですので、流石に男女の間柄がそう簡単に進まないことはわかっているはずです。

母と父がどういう馴れ初めで結婚したのかは聞いたことがありませんが。

 

日曜日、待ち合わせは名古屋駅の金時計。待ち合わせとしてこれ以上分かり易い場所もありません。

昼前の人通りが激しい時間。金時計の下に庄司さんは立っていました。

お見合いの時のような堅い感じのスーツではなく、セーターに上着を羽織り、落ち着いた感じの服装でした。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「いえいえ、私が不安で少し早く来ていただけですから。時間通りに来て頂いてありがとうございます」

軽く挨拶を済ませ、2人で歩き始めました。こうして男性と2人きりで歩くのは初めてなので、少し緊張していました。

 

 

何を話したらいいのか、今日はどこへ行くのか、私のことをどう思っているのか。

疑問や不安が頭をよぎって上手く言葉が浮かびません。

 

「今日は初めてのお付き合いですし、駅の近くを回ろうと思っているのですが、どうでしょう?」

「え……? そ、そうですね。それが良いと思います」

「あまり緊張なさらないでください。私もこういうことには慣れてませんので、気持ちは同じです」

「あ、ありがとうございます」

 

道中会話が弾むわけではありませんでしたが、庄司さんは特に急かすことなどもなく落ち着いて話を進めてくれるので気が楽でした。

前回のような誰かに質問攻めにされるでもなく、お互いにゆっくり話を進めようという気持ちが伝わってきて安心でした。

 

「まずはスカイプロムに行ってみようと思うのですが、清美さんは高い所は大丈夫ですか?」

「はい。高所恐怖症などはありません」

「それはよかったです」

そういって彼はさわやかに微笑みました。なんだか安心できる表情だったのを覚えています。

 

名古屋市で生まれ育ちましたが、子供のころの私は遊びに行く自由はありませんでした。

大学生になっても改まって観光などをすることがなかったのでスカイプロムナードに行ったことはありませんでした。

なので高い所から自分の街を見るというのは少し楽しみでした。

 

スカイプロムナードはミッドランドスクエアのオフィス棟44階。

そこは一面ガラス張りの空間で開放感があり、まるで大空の中に立っているようでした。

その景色は非日常的で、とても気分が高揚しました。