NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.5

ハイスペ男子、坂間に近づくアラフォー美魔女の魔の手!果たしてどうなるのか?そしてあざと最年少、聖奈に新たな出会いが?!

 


 

前回 「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.4

 

 

ツカツカと、紗夜と坂間に真っ直ぐ近づいていくCELINEの真っ黒なハイヒール。

「あら、ここにいたのね...小竹さんも一緒だったの?」

まるで紗夜などいなかったかのように、あからさまに彼女を押しのけるようにやって

きたのはリノだった。

リノはすっかり坂間が自分を少しは見てくれていると考えていた。リノの顔を見ると

少し坂間の表情が曇る、その変化を紗夜は見逃さなかった。

 

 

 

「今夜、時間ある?いいバー見つけたんだー、一緒に行かない?」

満面の笑顔で、閑静な高級住宅街にある隠れ家バーの写真をスマホで坂間に見せる。

「あー、誘いは嬉しいんですが、今日は残業があるんですよ」

「えー、そんなの小竹さんできるわよね?」

「いえ、あくまでそれは坂間さんの担当なので、私は...」

と言いつつも、それとなく坂間とリノの間にそっと入る紗夜。

「といいますか、明日は遂にプロジェクトのプレゼンが控えてますよ、三宮先輩。

もうスピーチ用の原稿、出来上がっているんですか?」

冷ややかな声がリノの耳を刺す、ここではじめてリノは紗夜をキッと睨んだ。

そして唇を少し噛み締めると、ふっと笑顔になって坂間にこう答えた。

「そうね、私も明日は勝負だし、今日はやめておくわ。また行きましょうね、遼くん」

そう言い残すと、少し悔しげに去っていった。

遠くなっていくヒールの音を聞いて、紗夜と坂間はどちらともなく顔を見合わせ、ほっと

笑う。

 

「ありがとう、助かったよ」

「三宮先輩、押し強いからね、気をつけないと」

「身に染みたよ」

その言葉がほんの少し、紗夜にはひっかかったものの微笑むとこう誘いをかけた。

「なら、そのお礼に焼肉にでもつきあって。明日はプレゼン全力でするつもりだから」

「了解、そっちはもうできてるの?」

「もちろん、あとは最後のブラッシュアップだけかな」

終業後、3駅ほど離れた高級焼肉店の暖簾をくぐった2人は、もうカルビは

きつい、この歳になるとハラミやミスジが美味しいよね、と笑顔で話しながら肉を

楽しむ。

紗夜はそんな会話を繰り広げながら、頭の中では全く違うことを考えていた。

もし...もしも、坂間とこのまま仲を深めて、彼がシングルでいることは既に聞いていた

から、私が恋人という座に収まったらどうかしら?プロジェクトメンバーでもバディに

なれそうな可能性も高そうだし、計画通り。

今いる恋人はさっさと別れて、セフレ達も全部切って、私は東京の裕福なマダムになる

のも悪くないものね。

そっと眼鏡を取ると、髪ゴムを解いた。ふわりと解ける巻き髪。

そして妖艶に微笑んで見せる。

地味子の紗夜の変化に、消煙グリル越しに見つめた坂間は少し驚いてみせた。

「へえ、いつもの君はかなりステルスの才能があるようだね」

「ふふ、会社の中では地味キャラだからね」

「化けるのが得意なんだ」

「こういうの嫌い?」

「ふふ、嫌いじゃないよ」

微笑みながら、ワインと美味しい焼肉を食べる30代。

やはりイケメンと食べる肉は最高ね、と少し酔いで頬を赤らめながら紗夜は手応えを

感じていた。

 

”今日はご馳走様、私から誘ったのに奢ってもらってごめんね”

”大丈夫、稼いでるから”

”いやみ〜、じゃまた今度は私が奢るから。またご飯行こうね”

”了解”

自宅に戻ると、LINEで坂間との会話もどこか甘く感じた。風呂上がり、濡れ髪を

タオルで拭きながら、紗夜はほくそ笑んだ。

するとLINE通話の音が鳴り響いた。

「....あー」

それは今日、会いたいと聞いていた恋人からであった。

「もしもし、やっと繋がった、今日はどうした?」

「仕事だったの、言ったでしょ」

「今日は二人の記念日だったろ?前々から予定開けておいてって言ってたじゃないか」

「あのねー、明日は今のプロジェクトの大切なプレゼンがあるの、それの打ち合わせ

だったの。申し訳ないけど、もう付き合って5年も経つしそんなの覚えてられないよ」

「...あんまりな言い方だな」

そっと美容液クリームを左指で掬うと、顔にてんてんとつけていき伸ばす。

「もし会えたら、プロポーズも考えていたのに...」

「えっ...本気?」

「...そんな気持ちすら気づかなかったんだろう?...もういい、じゃ」

ぶちっと通話が終わった。

しかし、紗夜には感情の抑揚は特になかった。かけ直そうという気持ちもなかった。

スマホをベッドに放り込むと、今日行かなくて良かったとも思った。

恋人とは付き合いは長い、一緒にいて居心地も良いが身体の相性は今ひとつだった。

だから...と先程、驚いたような顔で彼女を見つめていた坂間の顔を

思い出し笑い出す。彼との身体の相性はどうかしら、甘いのかしら、それとも苦いのかしら。

まあいいわ、きっとものにして見せる。

あの2人には負けない。